ここ最近のアルゼンチンで起こっているラテン・トラップ・ムーブメントについて

Nicki Nicole(ニッキー・ニコール。正式にはニッキ・ニコルが正しいと思われる。)の2ndアルバム『Parte de Mí』のレビューというか記事というかを書いていたはずなのですが、『アルゼンチン・トラップ・ムーブメント』に意識が向き過ぎたので分けました。

トラップというかHip Hopは本当に全世界で流行っていて、今回取り上げるラテン・トラップ(Latin Trap)というのは異国情緒も感じられるトラップになっていてまた良いです。

ということで今回は、ここ最近のアルゼンチンで起こっているラテン・トラップ・ムーブメントについて。

現在のアルゼンチン・トラップ・ムーブメントについて

まずはアルゼンチンの音楽に触れることになったきっかけから。

今年下半期から主にYouTubeのMVを介して楽曲単位のディグを始めたのですが、最初にKHEAというラッパーを発見しました。

今はUK Drillが中心のリスニング状況ですが、当時はUSラップに大ハマりしていたこともあり、KHEAのこの曲はめちゃくちゃにマッチしました。

そして7月に入るとニッキーが"Me Has Dejado"をアップ。動画が上がって数時間とかそこらで動画を開いた記憶なのですが、その時点で既に20万回再生を超えているという驚異的な数字に驚き、調べたらアルゼンチン出身だと。

言語がスペイン語だったことからKHEAも改めてチェックしたら彼もアルゼンチン。「さてはアルゼンチン、何かとんでもないことになっているのでは?」と考え、少しずつアルゼンチンのアーティストを探すようになりました。

基本は客演参加しているアーティストだったりディグってたまたま見つけたラッパーだったりを気が向いたときに探すくらいで今日まできたのですが、その中でWosDukiCazzuなどを知ることになりました。

彼ら…というかアルゼンチンのラテン・トラップが盛り上がっているのは間違いなく、それは2010年頃に始まったラップバトル・ブームから来ています。

それは着実に発展し、2014年には誰もが知る大会のひとつとなった『El Quinto Escalón』の存在が大きいようで、ここでのフリースタイル・ラップバトルをきっかけとして有名になっていくラッパーが増えていったようです。

上述したWosも出場者ですし、他にPaulo Londra、LIT killahもEl Quinto Escalón出身。Dukiに至っては2016年の優勝者。

バトルで結果を出したラッパーたちが次々と楽曲をリリースし、一気に広まったのが2017年頃。

当時最も聴かれたのはほぼ間違いなくKHEA feat. Duki & Cazzuの"Loca"。2021年12月6日時点で6.1億回という意味の分からない数字を叩き出しているので。

Cazzuも同じ頃に活動を始めた女性ラッパーです。ムーブメントの初期から女性ラッパーがいるっていうのがもうスゴいですね。ラッパーといえばどうしたって男性比が多いのが現実ですし。

ちなみにニッキーも2015年辺りから音楽活動を開始してラップバトルを観に行ったり参加したりしていたそうです。実際に楽曲をリリースするのは2019年ですし、上述したラッパーたちのようにバトルをしていた映像もないようなので、彼らをアルゼンチンのムーブメント第一世代とするならニッキーは第二世代に当たるのではないかなと。

2019年にはもう立派にアルゼンチンのトラップ・シーンが話題になっており、メディアにも取り上げられるレベルにまで発展。

The 7 Artists & Producers Bringing Argentina’s Trap Scene to the Mainstream

この前後でPaulo LondraがアメリカのBecky Gとコラボ↑、2019年にはイギリスのEd Sheeranとコラボした↓こともあり、アルゼンチンのラテン・トラップは英語圏に知れ渡ることになります。

ラテン・トラップの音楽性

『ラテン・トラップ』というジャンルで総称される彼らの音楽性は、プエルト・リコが発祥の地とされています。サウスのHip Hopにレゲトン(Reggaeton)が合わさったような音楽性で、ラテン・アメリカを中心として2007年以降に広まりました。

2007年当時のサウスHip HopといえばSouthern Hip HopからTrapへ移行する過渡期のような頃で、Gucci ManeとZaytovenが出てきたりLil Wayneが『Tha Carter』シリーズでブイブイ言わせてたりしていた頃ですね。

レゲトンはといえば、Daddy Yankeeが4th AL『El Cartel III: The Big Boss』をリリースしてビルボード・チャートで9位を記録した頃。どちらもアッツアツな時期。

そんなどちらもアツアツなタイミングで、しかもTrapがこれから始まろうとしているときに"どちらも良い具合にミックスされた"ラテン・トラップというのがプエルト・リコ出身のダディ・ヤンキーらを中心として誕生していくわけです。

US Hip Hopとラテン・トラップとの大きな違いといえば、やはり"歌唱"を大きく取り入れているところにある点と、スペイン語である点の2つにあるのではないかと思います。今ではUSもバチバチに歌っていますが、それでもラテンの方がメロディアスな面が強いように思います。この辺りはプエルト・リコのレゲトン要素が大きいのではないでしょうか。

アーティストとしてはやはりDaddy YankeeやJ Balvin、Bad Bunny、最近ではBecky G辺りの存在が大きそうですね。この辺りのアーティストを中心としたプエルト・リコ側、アメリカ側のラテン・トラップも興味を惹かれるところではありますが、今回はアルゼンチンのラテン・トラップについてなので、これについては機会があればということで…。

ラテン音楽とアメリカのシェア

ちなみに、ラテンの音楽ってアメリカでそれなりのシェアがありますよね。RihannaのTe Amo、Drake x Bad Bunnyの"MÍA"、6ix9ine x Anuel AAの"BEBE"など、プエルト・リコのアーティストも英語圏のアーティストらと積極的にコラボしているように見られます。

というのも、ラテンにルーツのあるラッパーって結構多いんですよね。Drakeなんかは商業的な意味合いが大きいんでしょうけど、そういうことも影響してUSでのラテン系音楽の受け入れ力っていうか懐っていうのは割と深いんじゃないかなと考えているわけです。流石の移民大国ですね。

そして2018年。Cardi Bがラテン・トラップ曲として"I Like It"がアメリカのビルボード・HOTチャート100の1位を獲得。

アルゼンチンのラッパーたちが楽曲を世に出したのが2017年で、メディアや英語圏に目に見えて進出したのが2019年。Cardi Bのこの結果はアルゼンチンのシーンにとっても追い風となる出来事だったでしょう。

現在のアルゼンチン・ラテン・トラップ

主なレーベルはBad Bunnyも所属するRimas Entertainment(こちらはプエルト・リコのアーティストが中心ですが、Cazzuも在籍)、アルゼンチンでは地元インディ・レーベルのDale Play Records(2018年創業)の2つです。

メジャーどころだとSony Music Latinがあり、Becky GやChristina Aguileraなどアメリカのアーティストはもちろん、プエルト・リコやアルゼンチンのアーティストも多数在籍しています。ニッキーもDale Play RecordsとSony Music Latinの両方に在籍しています。

補足というか蛇足なのですが、アルゼンチンのラッパーは白人ばかりですよね。ブラジルのご近所さんにも関わらず、黒人があまり多くないそうです。

これについては面白い記事があったので以下を参照してください。

簡単に言うと、ブラジルはコーヒー栽培に適していて、サトウキビが暴落したことで職にあぶれた黒人がブラジル全土に渡り広がったこと、アルゼンチンで野生の牛が大量に増えたことを利用して商売を始めたスペイン系白人がアルゼンチンに移住したことが、現在の人種分布となった経緯だとか。

おわりに

アルゼンチンのラテン・トラップはプエルト・リコのそれよりもう少し自由度が高くて面白いなというのが現状の感想です。もちろんプエルト・リコもディグれば同じくらい良いものだとは思っていますが、現状そこまで手を回そうという気にはなっていないので…。

来年はアルゼンチンのラテン・トラップを自分の中の中心のひとつとして置きつつ、プエルト・リコやUSのラテン・トラップも拾い上げていきたい所存です。

では。

Nicki Nicole – 『Parte de Mí』

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