ブログで何度も言っていますが、今年の下半期は本当にHip Hopばかり聴きました。現行USラップから入り、徐々にUK Drillへシフトし、今は並行してARG Latin Trap(アルゼンチン・ラテン・トラップ)も聴いています。ロックやフォークなどのバンド形式のものを聴く機会が減ったこともあり、今回はラップ・アルバムのランキングを作ろうと思い立ちまして、本記事に至ります。本記事はベスト・ミックステープですね。これと別に『ベスト・ラップ・アルバム』も用意しています。どちらもUS、UKない交ぜでやっていきます。


- 2021年下半期ベスト・ミックステープ
- 10. Headie One - Too Loyal for My Own Good
- 9. EST Gee - Bigger Than Life or Death
- 8. ShayBo - Queen of the South
- 7. D-Block Europe - Home Alone 2
- 6. BackRoad Gee - Reporting Live (From the Back of the Roads)
- 5. Bizzy Banks - Same Energy
- 4. Unknown T - Adolescence
- 3. V9 - Murk with a Mouth
- 2. Kwengface - YPB: Tha Come Up
- 1. Loski - Censored (EP)
- おわりに
2021年下半期ベスト・ミックステープ
前回のベスト・アルバムと同じく今回も10枚選んでいます。また、
毎回6月と12月リリースのアルバムに対するベスト・アルバムへの扱いをどうしようかと考えてはスルーしてきたんだけど、今年からは
①12月に11月までのものを出す
②"デラックス版"と称して完全版の上半期・下半期ベストを改めて出す
というHip Hop方式を取ろうと思う。— ノッピ (@nopyyyy) November 25, 2021
こちらの方針でやっていくので、2022年1~2月にデラックス版として改めて12月分も含めたランキングを作る予定です。
というわけでまずはランキング・リストから。
- Loski - Censored (EP)
- Kwengface - YPB: Tha Come Up
- V9 - Murk with a Mouth
- Unknown T - Adolescence
- Bizzy Banks - Same Energy
- BackRoad Gee - Reporting Live (From the Back of the Roads)
- D-Block Europe - Home Alone 2
- ShayBo - Queen of the South
- EST Gee - Bigger Than Life or Death
- Headie one - Too Loyal for My Own Good
10. Headie One - Too Loyal for My Own Good

ロンドンはブロードウォーター・ファームのコレクティブ、OFB(RV、Abra Cadabra、BandoKayらが所属)のメンバーでもあるHeadie Oneによる5thミックステープ『Too Loyal for My Own Good』が10位。昨年リリースの1st AL『EDNA』がUKアルバム・チャート1位を獲得したのは記憶に新しいですね。Quincytellem、Ambezza、Io、TSBやM1onthebeatらは前作から続投で、H.E.R.の"My Own"をプロデュースしたGRADESとScribz Rileyが6曲目"Cry"に参加。他にAfroswing系のJae5(7)やUKドリル引っ張りだこのGhostyなど盤石なプロデューサー陣。『EDNA』で売れた曲がどちらもUKドリルだったことからドリル・ラッパーと思われる節もあるかもですが、Young T & BugseyやAitchなどとコラボした経歴や実際の音楽性を鑑みても彼はUK Hip Hopラッパーであり、ドリルやアフロ、さらにはトラップも取り込むスタンスは本作でも同様。フィーチャリング参加なしの漢気溢れる快作。
注目曲:
- Cry - Busta Rhymesの"Put Your Hands Where My Eyes Could See"をサンプリングしたAfroswing
- 2 Chains - M1onthebeat x UK Drill = 最高
9. EST Gee - Bigger Than Life or Death

ケンタッキー州のラッパーといえばBryson Tiller。若手だとJack Harlowが有名だと思うのですが、それ以外ってなると結構名前を出すのが難しい、ラッパー的には割と土壌が出来ていない場所だというのはコモンセンスですが、EST Geeはその州の都市ルイビルで生まれ育ったラッパーです。2017年から活動を始め、2019年には作品をリリース。そして2020年のミックステープが評価され、今回の『Bigger Than Life or Death』でチャートイン。Yo GottiのレーベルCollective Music Groupと契約を結び、Lil Babyの楽曲"Real as It Gets"に客演参加したことも手伝って、2021年最も人気・知名度を獲得したラッパーの一人となりました。本作はダークなビートや綺麗なピアノを中心としたトラップで、Sad Type Beat、Emotional Pianoなどと分類されるようなビートが多用されています。中心的なプロデューサーは、EST Geeの1stからの付き合いの盟友FOREVEROLLING。他にSouthside(1, 10)やAyo Bleu(7)などが協力バックアップ。フィーチャリングのラッパーもLil Baby、Future、Young Thug、Lil Durk、Yo Gotti、Pooh Shiestyなど豪華そのもの。
注目曲:
- In Town - Lil Durkとのコラボ曲。Ayo Bleu以外にEastWave、TURNMEUPJOSHそして日本からTrill Dynastyもプロデュース参加。
- Price Tag - 掛け声とスクラッチで始まるというオールドスクールなHip Hopで始まり高いBPMとカウベル、EST Geeのつんのめるフロウで一気に2021年のトラップまで駆け上がりわしはもう昇天じゃ…。
8. ShayBo - Queen of the South

ナイジェリア出身サウス・ロンドン在住のShayBo。通称名『Queen of the South』をそのままアルバム名にしているのですが、同時にこれはアメリカの麻薬カルテル・クライム・ドラマ『クイーン・オブ・ザ・サウス 〜女王への階段〜』から引用したタイトルでもあります。これがデビュー・ミックステープですね。彼女はAfroswingやDancehallを中心としたラッパーで、ジャンルに適したメロディアスなフロウを得意とします。とはいえラップもべらぼうにイカしてるので一回GRM Dailyの"Daily Duppy"を観てみましょう。ね?アルバムの半分以上をプロデュースしたのは31歳にしてガーナ、ナイジェリアを中心に10年活動し、最近ではBeyoncéがキュレーション、プロデュースを務めた『ライオン・キング』サントラに3曲提供したGuilty Beatz(1, 5, 7-11)。ほかにRuss MillionsやCentral Ceeも手掛けたHargo(3, 4)も。ゲストにはJorja SmithやWaleなど。
注目曲:
- My Sister - Jorja Smithとのコラボ曲。アフロとR&Bなので当然相性抜群。
- Bad Gyal - 良いアフロ。音の抜き方、加え方が好み過ぎる。コーラスワークもお見事。
7. D-Block Europe - Home Alone 2

Young AdzとDirtbike LBの2人からなるUK Hip Hopデュオ(たまにLil Pino)、D-Block Europeによる5thミックステープ『Home Alone 2』。当然あの映画から来てます。ゴリゴリのオートチューンにトラップのビートはUKには珍しく、現地では『UK Trap Wave』とも呼ばれているそうですが、彼ら以外だとM HunchoかNafe SmallzかGhostface600かくらいしかいないんじゃないですかね?とはいえSpotifyでの再生回数を見る限りでは思った以上にUKトラップは人気みたいです。トラップのビートを踏襲しつつ、ウワモノ使いと独特なフロウはUKならではのもので、同じトラップでもハッキリとした違いがあって新鮮。8曲目以降はトラップ以外のUKラップのジャンルにも拡がっていき、アルバムに変化が生まれてくるので思った以上にサクッと最後まで聴けてしまう驚異の72分。
注目曲:
- Black Sheep - 今年は本当にこのリズムのピアノ音をよく耳にしました。流行ってるのか昔からあるのかは知らないのですが、UKのラッパーもこれを取り入れたか…という感じ。
- Make You Smile - 後半の客演参加曲は特にUKのラップ・ジャンルを取り入れていて良曲が多いのですが、AJ Tracey参加のこれは完璧にUKのそれで最高。
6. BackRoad Gee - Reporting Live (From the Back of the Roads)

生まれ育ちは東ロンドン、コンゴ出身の両親の元、コンゴ・ルーツの音楽を聴かされて育ったBackRoad Geeによる1stミックステープ『Reporting Live (From the Back of the Roads)』。『Mukta Wit Reason』は"プロジェクト"っていう立ち位置なんですかね。この辺これ以上ややこしくして欲しくないっスねぇ~。本作は序盤にドリルを固め、以降Afroswingを中心にして進んでいくアルバム構成。今年出たのだとTion Wayneの1st AL『Green With Envy』と同じ系譜ですね。(両親が、ですが)移民という経歴は声質やフロウに大きな影響を与えているようで、他のUKラッパーたちとはまた違った音楽性があり、この辺りはM.I.A.やRoots Manuvaなどにも通じるものがあるように感じます。プロデューサーには個人的に大好きなFinn Wigan(2)、Afroswingの4Play(13)やRansom Beatz(7, 14)など。2021年はドリルにハマったのですが、UKではAfroswingも流行っているということで自然に耳にする機会も多く、そりゃ同時にハマりますよねってことでアフロも良く聴いてました。ミックステープではこれがAfroswingのトップになります。
注目曲:
- Enough is Enough - Finn WiganはKwengfaceの"Scary"で出会ってDigga D x ArrDeeの"Wasted"など辿っていったのですが全部最高でした。当然これも。
- Ancestors - 4Playプロデュース、NSGとのコラボ曲。間違いない。
5. Bizzy Banks - Same Energy

シカゴ→UK→NYという流れで輸入されたのでUKドリルの影響色濃いブルックリン・ドリルからはBizzy Banks。本作は2枚目のミックステープになります。Sheff Gや22Gzらが地元NYの近い世代にいて、再生回数や知名度は彼らの方が上ですが、個人的な好みはBizzy Banksに軍配が上がります。ドリルを中心としつつ、USトラップも良い塩梅で入れてくるのもあくまでブルックリン・ドリルだというニュアンスを感じるし、単純に色んなジャンルを楽しめるのが良いですね。プロデューサーにはTay Keith(10)やD.A. Got That Dope(3)。Dizzy(4)やYoz Beatz(2, 11)などUKからのプロデューサーも混ぜつつ、Flossy Draco(5)やOFF RECORDの面々(Alau、Luca、Matt Marvin)(6, 7, 12)など地元NYのプロデューサーを起用。この辺りは地元を愛するUSの気骨がありますね。12曲全て2分台という瞬足の音速ドリラー。
注目曲:
- Adore You - PnB Rockが客演参加のR&Bトラップ。3曲目にこれがあるっていうのが素晴らしい。
- My Shit - ブルックリン・ドリルってこういうことだよなっていう絶妙なフロウ。
4. Unknown T - Adolescence

UK Drillにハマったこともあり、こっから先は全部ロンドンのドリラーたちです。4位はUnknown Tの2ndミックステープ『Adolescence』。ロンドン・ハックニーの98sというコレクティブ(E9のHomerton、E8のHolly Streetの総称。彼はHomerton所属)に所属していて、V9と合わせてそのチームの顔的な存在です。デビュー・シングル"Homerton B"が2018年にリリース、UKシングル・チャートで48位を記録したことが契機となってUK Drillが俄かに流行り始めたというのはコモンセンスですが、現在はよりソリッドかつダーク、攻撃性の高いドリルを展開しています。ラップが格好良いのは当然としてプロデューサーもR14(4, 5, 8, 13, 15)を筆頭にChris Rich(1, 11)、Gotcha(5)、Ghosty(6)などUK Drillの最強プロデューサーたちに、DrakeやA$AP Ferg以外にブルックリン・ドリル勢などUSなどにもドリル・ビートを提供するAXL Beats(2)など、プロデューサー陣もえげつないレベルの面々が揃い踏み。Unknown Tは他のラッパーと違って"Look!"ではなく"Listen!"と言ってからラップが始まるのが何か良いですよね。注目の集め方が目じゃなく耳に焦点を当てるのが小粋というか…。
注目曲:
- EAST - やっぱGotchaのビートは明らかに良いので…。ビートに合わせたフロウもまた良し。
- Bible Love - Chris Richも良いんですよね。ハット変えたら余裕でドリルになりそうな、しかしだからこそのメロディアスなフロウが光る。
3. V9 - Murk with a Mouth

Unknown Tと同じくHomertonの98sコレクティブから、真っ黒なデッドプールのマスクで知られるV9の2ndミックステープ『Murk with a Mouth』が3位。98sの繋がりもあるからか、Gotcha(1, 4)やGhosty(4, 10)、R14(11)らはこちらにも参加。面白いのが、Sam SmithやKali Uchisなどを手掛けたTwo Inch Punch(9)のようなプロデューサーも参加しているんですよね。サウンドからも分かるのですが、結構取っつきやすい明るめなDrillがV9の特徴で、アルバム全体のバラエティの豊富さ、飽きのなさが本作を3位に位置付ける要因となりました。シングルカットされたのが"Hole in One"、"Change"、"Sweeper"の3曲。ドリルだけどドリルっぽくないメロウな楽曲が本作では良く選ばれていて、ひとつ可能性として拡げてきたなという印象。2019年の"Kids Next Door"から明らかにビートのテイストが今のそれになり、以降"Hello Hi"と続いて本作と続きます。他と異なるテイストを追求していることもあってか、Billy BillionsやGhetts、Unknown Tが客演参加している曲はそれぞれの魅力が出ていてアルバムの中でも輝きが違います。
注目曲:
- Arigato - GotchaとGhostyが夢のコラボ・プロデュース。悪くなるはずがない。
- Shoulda Woulda Coulda - Ghetts参加のドリル。V9の選ぶビートの基準の1つとして。
2. Kwengface - YPB: Tha Come Up

V9がメロウな可能性を拡げたドリルとしたら、サウス・ロンドンはペッカムのドリル・コレクティブ、Zone 2(本作ではBGodyとPS Hitsquadが参加)のKwengfaceによるデビュー・ミックステープ『YPB: Tha Come Up』は、ドリルらしさを深く追求したピュアなドリル・アルバムと解釈できます。彼のラップはUK Drillの中でも群を抜いて攻撃的なソリッドさを持っていて、そこにCZR(2, 5, 11)の不穏なドリル・ビートが非常にペアリングします。"Bruck It"や"Chef"など、アルバム前半には暴力的でバキバキなUKドリル・バンガーが揃っていて、デビュー・ミックステープに相応しいエネルギッシュさが。"Oh Shit"でトラップ、"Code Red"ではアフロのビートにもアプローチして今後の可能性に触れつつ、それ以外は終始ドリルで攻める怒涛の30分。多くの人が彼のラップのファンなように、個人的にも彼のラップは一番と言って良いくらいには好みです。
注目曲:
- Chef - シングルカットされたこれは流石に良過ぎる。
- Active - ビートの工夫がものすごい。ドリルで聴ける"全て"をしている。
1. Loski - Censored (EP)

正式にはミックステープではなくEPなのですが、10曲あるしこちら側のランキングに入れた方が気持ちが良いよねってことで入れた結果、ロンドンのHip HopコレクティブHarlem Spartans所属のLoskiの『Censored』が1位になりました。アルバム・ジャケットはシカゴ・ドリルのG Herbo『Humble Beast』インスパイアですね。Drakeは『Scorpion』の制作の際、インスパイアされたラッパーにLoskiの名前を挙げていましたが、それはそうだと納得。Hookらしいキャッチーさとドリルらしいダークさを共存させた彼の声とフロウは唯一無二であり、シングルカットされた"Rolling Stone"、"Rolling Dice"、"Woosh and Push"からも分かるように、楽曲が持つエネルギーと彼のラップのシナジーがエグいことになっています。シングルらしいシングルというか、アルバムの中でも良い意味で浮いているのが分かるかと思うのですが、そういうアルバムの中でフックとなる部分がありながらもそれだけが突出しているわけでもないというバランスが程良くて最高なんですよね。CJの"Whoopty"で知られるpxcoyo(6)、Stefflon DonやSean Paul、Ray BLKなどアフロやダンスホール系を手掛けたRymez(7)に加えてCZR(3, 5)やGhosty(8)も参加。
注目曲:
- Woosh and Push - Active GxngのSusことSupectとのコラボ曲。
- Rolling Dice - どちらもシングルカットされた曲ですが、それだけのパワーが確かにある。
おわりに
- Loski - Censored (EP)
- Kwengface - YPB: Tha Come Up
- V9 - Murk with a Mouth
- Unknown T - Adolescence
- Bizzy Banks - Same Energy
- BackRoad Gee - Reporting Live (From the Back of the Roads)
- D-Block Europe - Home Alone 2
- ShayBo - Queen of the South
- EST Gee - Bigger Than Life or Death
- Headie one - Too Loyal for My Own Good
見返してみると、ガチでUKドリルにハマってたんだなぁと改めて実感しました。8割UKですよ。ミックステープということもあってかそこまで情報を漁れなかったんですが、もう何年も「アルバムとミックステープの定義は"アーティスト本人がそう言っているから"」という何ともな定義になっているので、足りない情報分は聴いて補うのが正解なんでしょう。実際アルバムとミックステープを聴き比べても違いなんてないですしね。
では。

