アルバム紹介

2020年ベスト・アルバム15

2020年という"響き"として気持ち良い年が終わります。

個人的には19年の11月から東京八王子に引っ越してきて、なんだかんだ楽しくやってこれたんですけど、そもそも東京に来た目的は「ライブ」だったんですよね。行ったライブは1月のルーシー・ローズ(Lucy Rose)のビルボード東京の1回のみ。…コロナめ。まだまだ大変な時期が続きそうなので、来年もライブに行くことはなさそうな気がしています。オンライン・ライブを楽しみにしましょう。

というわけで2020年、今年の個人的ベスト・アルバムを発表していきます。今年は15枚。最初は11枚だったのですが、「そういえばこれも…。」とか「うわこれ良いじゃん。」とか、なんだかんだで増え、調整した結果です。昔は50枚とか30枚とかのベスト・アルバムを出していたのですが、年々過去作を聴いたりそもそもの時間が取れなかったりと、減少傾向にあり、ここ数年はこれくらいの枚数に落ち着いています。大体月一で良作に出会えていると思えば十分すぎるくらいなんですけどね。

前置きが長くなりました。以下より始めます。

楽しみ方:

  1. 記事の文字数が3万文字近くと表示されているので、分けて読むor気に入ったアーティストの項目のみ読む、など、分割して読むことをおすすめします
  2. 各アーティストごとに、関連作品や似たアルバムなんかもSpotiryリンクだったりアーティスト名だったりで紹介していますので、アルバムをより深く楽しむための一助としてお楽しみください

個人的2020年ベスト・アルバム15

15と銘打っておきながらあれですが、早速"特別枠"があります。実際は15+1で16枚です。

見出しは「アーティスト名 - アルバム名」となっています。

特別枠. Mac Miller - Circles

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2020年1月17日リリース。アメリカ・ペンシルベニア州ピッツバーグ出身、LAを拠点としていたラッパー、マック・ミラー(Mac Miller)の死後初めてリリースされたアルバムです。なんだかんだで今作『サークルズ(Circles)』が6作目。ミックステープ11作含めると17作。そう、彼は多作なのでした。

死後リリースされたアルバムという理由から「特別枠」としています。最終的なGOサインをマックが出していないため、どうしても順位を付けるのは憚られる。しかしこれについて書かないという選択肢はない…ということで。僕は2011年、彼がメジャー1stアルバムをリリースしたときからのファンで、亡くなったときは本当に衝撃でした。精神的にショックを受け、しばらく何もできなくなったことをよく覚えています。

プロデューサー:Jon Brionについて

プロデューサーはジョン・ブライオン(Jon Brion)。レコーディング当時、彼とマックは密に連絡を取り合い、制作に勤しんでいたため、遺族が今作をリリースするにあたり、彼の続投を望むのは至極自然の流れでした。

ジョンは音楽プロデューサーであり、映画音楽の作曲家でもあり、楽器のマルチ・プレイヤーでもあります。特にキーボードやピアノなどの鍵盤楽器、ギター、ベースなどを担当することが多いようです。プロデュース作品及びマルチ・プレイヤーっぷりが遺憾なく発揮されているアルバムとしてはRufus Wainwright - Rufus Wainwright(1998年)、Fiona Apple - When the Pawn...(1999年)、Dido - Safe Trip Home(2008年)それとKanye West - Late Registration(2005年)などがあります。

カニエの『レイト・レジストレーション』はプロデュースのみですがほぼ全曲関わっていますし、それ以外の3つはどれも半数以上の楽曲にプロデュース・プレイヤー両方としてガッツリ参加しています。個人的にはダイドの2008年作のアルバムがおすすめ。AORのような大人っぽい楽曲やオーケストレーションをこなしつつ、非常に洗練された楽曲が占められています。しかし本人のソロ・アルバムはパワーポップなのが面白い。音は小ぎれいですが。

Circlesのアルバムとしての立ち位置

今作『Circles』は、前作『スイミング(Swimming)』の2枚で1つになるアルバムという想定で制作が進められていて、「円(Circles)の中を輪になって泳ぐ(Swimming)」というコンセプトを基にしたアルバムです。本当の予定では、もう一作予定されており、それも合わせて3部作となるはずだったのですが、それを聴くことは叶いそうにありません…。ジャズ・ヒップホップの『Swimming』、SSW的な一面を見せた『Circles』、そして最後は純粋なヒップホップ・アルバムの予定だったそうです。

今作は音楽ジャンルとしてどれと決めるのは難しく、様々な要素がバランス良く配合されています。生前からこの路線だったのでしょうし、だからこそルーファス・ウェインライトやフィオナ・アップルらのプロデュースを任されてきたジョンを期用したのでしょうし、内省的なアルバムだからこそ、余計に人を増やさず少数精鋭で臨んだのでしょう。ほとんどラップをせず、『ザ・ディヴァイン・フェミニン(The Devine Feminine)』で挑戦していたように歌い上げる楽曲で揃えている辺りからも、やはり今作はラップ・ミュージックではなく"シンガーソングライターのマック・ミラー"として聴くのが正解のように思えます。

遺族は今作のリリースに対して以下のコメントを残しています。

この複雑なプロセスに正解はありません。単純な道などないのです。 ただマルコムが世界に放とうとしていた作品が、皆さんに聴かれることが重要であることは間違いないと私たちは知っています。
マック・ミラーの遺作『Circles』のリリースが決定。先行シングル" Good News "のリリックを読み解く | SUBLYRICS

15. Tired Lion - Breakfast for Pathetics

2020年11月20日リリース。オーストラリア・パース(西オーストラリア)のグランジ・ロック・バンド、タイアード・ライオン(Tired Lion)による2ndアルバム『ブレックファースト・フォー・パセティックス(Breakfast For Pathetics)』。

2019年まではバンドだったのですが、2018年にギターのマットが抜け、2019年にベースのニックとドラムのイーサンが抜けたことで、現在はソフィ・ホープス(Sophie Hopes)のソロ・プロジェクト的な立ち位置になりました。ツアー・メンバーを雇って抜けた穴を補い、レコーディングもされています。

前作同様、今作でもヴァイオレント・ソーホー(Violent Soho)のフロントマンであるルーク・ボアダム(Luke Boerdam)がプロデューサーとして参加しています。彼は公私ともにソフィのパートナーで、音楽的にも人生的にも深く関わっている人物です。ヴァイオレント・ソーホーも2020年にアルバム『Everything Is A-OK』をリリースしています。

音楽性としてはグランジ、ポップ・パンクとエモを中心に、90~00年代のUSロックからの影響が色濃く出ています。ウィーザー(Weezer)、ジミー・イート・ワールド(Jimmy Eat World)にグリーン・デイ(Green Day)辺りとアヴリル・ラヴィーン(Avril Lavigne)など00年代ガールズ・ロックを掛け合わせたような感じと言ったらイメージしやすいかなと。

14. Circa Waves - Sad Happy

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『Happy』は2020年1月10日にリリース、『Sad』は2020年3月13日にリリース。イギリス・リヴァプールの4人組バンド、サーカ・ウェイブス(Circa Waves)初の2枚組アルバムで、今作『サッド・ハッピー(Sad Happy)』は4作目に当たります。

2枚組コンセプト・アルバムについて

幸福と悲しみという、一見"対極"に存在する感情ですが、これについて彼らは「若い世代にとって、幸福と悲しみという感情は非常に近いものだと思う」と回答しています。これは例えば、さっきまで気候変動の危機について危惧していたかと思えば、今はどうでも良いようなバラエティ・コンテンツに笑っている、といった"瞬間的な感情の動き"について言及していて、その奇妙さが同時に魅力的にも見えることから、幸福と悲しみというコンセプトでアルバムを制作しようと考えたのだとか。

「幸福と悲しみはもはやどちらも排他的で、感情を揺さぶるものではなくなってしまったのでは?」というのがコンセプトとしてあり、その上で人々の生活、愛情などについて書かれています。

楽曲はコンセプトごとに制作されたのではなく、一気に両方の楽曲が作られ、その後振り分けられました。昨今はすっかりシングルなど単体楽曲の時代であり、アルバム単位で考える音楽は淘汰されつつあります。2枚組アルバムを出せたのは挑戦的で、工夫することも含め挑みがいのあることだったようで、実際アルバム・リリースの速度的にもバンドの充実度が伝わってきます。

ちなみに、楽曲制作中はドラマ「24」をよく観ていたようで、毎話"クリフハンガー(cliffhanger)(続きが気になるハラハラした状態)"で終わることに感銘を受け、アルバムもそんな風にしようと画策したようです。

音楽性の変化

今作以前までは個人的にハマらず、リリースされた日に一度聴いては「うーん」と見送っていたのですが、今作は一聴して「おっ」となり、結局今年ずっと聴き続けたアルバムになりました。過去作を改めて聴くと、どういうわけかあの頃とは違って聴こえ、こっちも良いなと感じており、本当におれってやつは……。

2ndで大手レーベルのヴァージン(Virgin EMI)を抜け、前作からPIASという1983年創業のレーベルに移り、ProlificaというPIAS傘下でリリースをするようになりました。そういうレーベルの関係もあってか、今作は前作よりわずか10か月というスパンでリリースされました。初のセルフ・プロデュース作で、ボーカルのキリアンは「最終的にリック・ルービンになりたい」と言っていたので、その道を歩み始めたというところなのかなと。

単純に作曲の調子が良く、無駄に待つよりさっさとリリースしてしまおうよ、という部分も大きかったようです。最近はロック以外のアーティストがメインストリームを支配していますし、話題に上がるためには楽曲のリリースが一番手っ取り早い、ということでしょう。

前作よりピアノやシンセの音がふんだんに使われており、特にアルバム『サッド』は物悲しくも美しいです。当時はゴリラズ(Gorillaz)をよく聴いていたそうで、確かにその影響というのは表出しているように感じます。他にMGMTやフェニックス(Phoenix)、ブリーチャーズ(Bleachers)なども聴いていたとか。

13. Trace Mountains - Lost in the Country

2020年4月10日リリース。トレースマウンテンズ(Trace Mountains)ことデイブ・ベントン(Dave Benton)のフォーク・ロック的ソロ・プロジェクト。元Lvl Upのギタリストで、現在28歳。今作『ロスト・イン・ザ・カントリー(Lost in the Country)』は2ndアルバムにあたる作品です。

ソロ名義ではありますが、バンドとしてジム・ヒル(Jim Hill - Gt, Ba, Org)、スザンナ・カルター(Susannah Cutler - Vo, Syn)は前作も参加。他にグレッグ・リュトキン(Greg Rutkin - Dr:元Lvl Up)やショーン・ヘンリー(Sean Henry - Ba)らが参加しています。

ローファイからハイファイへ

今作で大きく変わったこと・意識したことはサウンドにあり、彼はスパークルホース(Sparklehorse)の『It’s A Wonderful Life』でも使用されたレスリースピーカー(1960年代によく使われた)を使い、これまでのローファイな音像からの脱却を図りました。テープの歪みは少なくなり、よりクリーンなサウンドになっています。

また、今作はProToolsで制作されたそうで、これをわざわざ言うということは、以前のアルバムはアナログでの制作だったのかな、と推測されます。前作よりもシンセ音が増えていたり"Benji"ではARTHURというバンドの楽曲"AB"をサンプリングしていたりと、音楽的に色々な変化があって飽きさせません。

内省と自己発見のアルバム

今作はソーシャル・メディアの承認欲求や未来への不安感といった、現代人の苦痛について書かれた"内省と自己発見のアルバム"となっています。

また、ディア・ノラ(Dear Nora)のアルバム『Skulls Example』からの影響もあり、"Wifi"や"Smartphone"など、意図的に21世紀以降に生まれた単語を使ったそうです。

アルバムでの音楽的影響はトレイシー・チャップマン(Tracy Chapman)、AC/DC、シン・リジィ(Thin Lizzy)などが挙げられています。そもそもの受けた影響としてはウォー・オン・ドラッグス(The War on Drugs)(特に『Lost in the Dream』)、カート・ヴァイル(Kurl Vile)、スパークルホースなどがありますので、そちらを中心としつつ、今作ではいわゆるロックらしいロックを取り入れようとした、といった感じでしょうか。

12. beabadoobee - Fake It Flowers

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2020年10月16日リリース。フィリピンのイロイロ市生まれ、イギリスの西ロンドン育ちのビーバドゥービー(beabadoobee)(以下ビー)ことベアトリス・ラウス(Beatrice Laus)の1stアルバム『フェイク・イット・フラワーズ(Fake It Flowers)』。

今作は端的に「グランジ」や「90年代ロック」と表現されることが多く、実際グランジ特有の"静→動"のダイナミズムや痛切なまでの赤裸々な歌詞など、当てはまる部分は多分に含まれています。初期の頃はベッドルーム・テイストな楽曲でしたが、作品が出るにつれ、ギターをフィーチャーしたノイズ由来のロックに変貌しました。

アルバム名『フェイク・イット・フラワーズ』の由来は、リハーサル・スタジオの近くにあった小さな花屋の店名から。響きが気に入ったからメモしておいて、レコーディングのたびにフェイク・イット・フラワーズと名付けたフォルダに楽曲が貯まっていったことから名付けられました。また、花にはそれぞれの美しさ・純粋さがあり、アルバムの個々の楽曲もそういう風に感じてもらいたかったからとのこと。

受けた影響

彼女にとってのヒーローは何人かいて、特に好きなのはソニック・ユース(Sonic Youth)とペイヴメント(Pavement)、それとエリオット・スミス(Elliot Smith)を挙げています。最近の人だとフォンテーン・DC(Fontaines DC)やアレックス・G(Alex G)などがお気に入りの様子。

初めて購入したCDはグリーン・デイ(Green Day)の『Dookie』で、10代に夢中になったのはヤー・ヤー・ヤーズ(Yeah Yeah Yeahs)にダニエル・ジョンストン(Daniel Johnston)と、そりゃグランジ系にポップ・パンクが混じるわな、というラインナップが揃っています。

また、フローリスト(Florist)やサイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)など、フォーク・ミュージックも好んで聴くという意外な面もあります。ビーはキミヤ・ドーソン(Kimya Dawson)のアルバム『Remember That I Love You』にインスパイアされて作詞作曲を始めたそうですし、言われてみれば"Back to Mars"や"How Was Your Day?"などはグランジ的なフォークですし、エモ・ラップなどでもあり得そうな研ぎ澄まされた感じもあります。相性良いんですね。

『Fake It Flowers』詳細

プロデューサーは元ザ・ヴァクシーンズ(The Vaccines)のピート・ロバートソン(Pete Robertson)と、アイルランドのスタジオエンジニアであるジョセフ・ロジャース(Joseph Rodgers)。どちらもEPからの付き合いで、お互いに音楽的好みが近いことから制作の関係を続けているのだとか。

ピートはバンドのドラムとして活動してましたし、ジョセフはカール・ハイド(Karl Hyde)のアルバム『エッジランド(Edgeland)』のドラム・レコーディング・アシストとして参加したり、ビーの初期作のドラム(打ち込み)をしたりと、両者ともドラムに精通しているのがポイントですね。

アルバムの音楽性はグランジを筆頭に"あらゆるギター・ロック"の良いとこどりのブレンドといった感じで、アンセミックなサビも加えて新世代のギター・ヒーローが登場しちゃったな、という印象。The 1975所属のレーベル、ダーティヒット(Dirty Hit)からのリリースということもあってか、楽曲のところどころにお洒落ポイントもあり、中々隙のない作品になっています。

楽曲制作や詩を書くことは彼女にとって精神的なセラピーでもあったようです。今作では自傷行為やトラウマ、感情の機微、学生時代から付き合っている恋人ソレン・ハリソン(Soren Harrison)との恋愛など、ティーンらしい内容が同世代に共感を呼んでいます。

9曲目の"Horen Sarrison"では"あなたに恋してることを知っててほしい/でもこの関係を快適だとは思わないで欲しい"と歌っていて、10代の頃の甘酸っぱくも手厳しい感じが良くて、心の中で「良いなぁ~」ってため息がちに思いました。

11. Gorillaz - Song Machine, Season One: Strange Timez

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2020年10月23日リリース。7作目ということで、次のアルバムでブラー(Blur)がこれまでにリリースしたアルバム枚数に追いついてしまいます。そして今作はシーズン・ワン。第二弾も予定されているため、実質もう追いついたことになります(そうはならんやろ)。

今作は1st~3rdの懐かしい感じを備えつつ、『ヒューマンズ(Humanz)』以降のビート感をも持ち合わせたハイブリッド感というか。温故知新という具合が個人的に非常に好評です。やっぱり好きになった頃の音楽が新しいアルバムでも聴けるっていうのは単純に嬉しいですよね。

ちなみに、次のシーズン2ではドリー・パートン(Dolly Parton)やテーム・インパラ(Tame Impala)も参加するとか。

ソング・マシーン・プロジェクト(Song Machine Project)

ソング・マシーン・プロジェクト(Song Machine Project)は、「アルバムという媒体に発生する制約やコンセプトに縛られずに自由に楽曲制作をし、楽曲と相性の良さそうなアーティストをコラボさせ、音楽的により前進する。」というのを目的としています。ある意味ではそういうコンセプトというか、短編集的作品という認識で捉えても良いのかな、と思っています。

曲は「エピソード」という形でメンバーやコラボ相手と対話する内容もあり、PVでは若干のストーリーも感じられ、アルバムへの没入感を高めます。とはいえ、これらPVを観て得られるのは何より「有機的」な点ではないかと思うわけですが。今作は、楽曲単位で成り立っている点が"最近の音楽的消費のされ方"にマッチしています。これは瞬間的な反応を求めて"あえて"月一シングルリリースを敢行したそうで、アルバム→シングル時代がなんだか現実になったんだな、と思わされ、少し寂しさを感じました。

圧倒的なコラボレート"物量"

今作はその性質も相まって、過去に類を見ないレベルで様々なジャンルからゲストが参加しています。

UKロックからはザ・キュアーのロバート・スミス(Robert Smith)、元ニュー・オーダー(New Order)のピーター・フック(Peter Hook)、スレイブス(Slaves)などが参加。UKグライム(ラッパー)シーンからはスロウタイ(Slowthai)、カノ(Kano)、オクタヴィアン(Octavian)、スケプタ(Skepta)。他にスクールボーイ・Q(ScHoolboy Q)、セイント・ヴィンセント(St. Vincent)にベック(Beck)など、豪華そのものな面々で構成されました。

プロデューサーにはジェイムス・フォード(James Ford)やマイク・ウィル・メイド・イット(Mike Wil Made-It)、マイク・ディーン(Mike Dean)など、Hip Hopプロデューサーからも大物が参加。

また、偶然なのかなんなのか分かりませんが、"Albarn"の名が付く者がデーモン除いて2人いるんですよね。EttaとRudyっていうんですけど、娘はミッシー・アルバーン(Missy Albarn)なのでAlbarn採用なのでは?と疑惑の目を向けています。何なんでしょうね。

"Momentary Bliss"では歌詞にビートルズ(The Beatles)の"Lovery Rita"が引用(00:39~辺り)されていますが、ここの部分のオリジナルの歌詞は2Dが"Ryvita, Ryvita"と書いていたそうですが、それをマードックが(こいつ腹減ってんなぁ…)と思いながら"Rita"に変更し、"Lovery Rita"の引用歌詞に変更した、という経緯があります(Ryvitaはイギリスのライ麦クラッカーなどを販売)。

アルバム『ヒューマンズ』でも、ザ・クラッシュ(The Clash)の『London Calling』から「エレベーター、ゴーインナッ!」を引用していたり今回だったり、ゴリラズの引用ってなんか小粋で好きなんですよね。

10. Bruce Springsteen - Letter to You

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2020年10月23日リリース。ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)の20作目となる『レター・トゥ・ユー(Letter to You)』は、ブルースのバック・バンドとして1972年から活動をめたE ストリート・バンド(E Street Band)と共同制作の作品です。アルバムのテーマとして「死」と「老い」、「後悔」を扱っています。

主題①:「死」と「老い」、「後悔」

このテーマを扱うようになった理由は、E ストリート・バンドの初期メンバーの死が深く関係しています。ダニー・フェデリシ(Danny Federici - Org, Acc)は2008年に皮膚ガン、クラレンス・クレモンズ(Clarence Clemons - Sax)は2011年に脳卒中の合併症によって亡くなりました。

そして、決定的だったのは2018年のこと。ブルースが音楽キャリアをスタートさせるときに始めたバンド、ザ・キャスティルズ(The Castiles)のバンドメイトであるジョージ・タイス(George Theiss)が亡くなったことで、ブルースは死について探求するようになったのです。

キャスティルズ最後の生き残りとなったブルースは、衝動的に"Last Man Standing"を書き、そのまま7~10日間で一気に全ての曲を書き上げました。中でもアルバム・タイトルでもある"Letter to You"は「ジョージとバンドの思い出」に捧げられた楽曲として知られます。

レコーディングは2019年11月にニュージャージーにあるブルースのホーム・スタジオで行われ、たった4日間で全てを録り終えました。元は5日のスケジュールを確保していたので、最終日は出来上がった作品をただ聴いて、皆で語らい合ったそうです。このレコーディングのプロセスは、トム・ジミー監督のドキュメンタリー映画『ブルース・スプリングスティーン:Letter To You』に描かれました。

主題②:「音楽そのもの」

もう一つのテーマとして「音楽そのもの」があり、ブルースは今作で意図的に一発録りに挑戦しています。オーバーダブしたのもギターソロ、手拍子、バックコーラスなど最小限のもののみに留め、音としての生感やバンド・アンサンブルに比重を置いた作品として仕上げました。

"Janey Needs a Shooter"、"If I Was The Priest"、"Song of Orphans"の3曲は1973年デビューアルバム以前に書かれた楽曲となっています。若い頃に作った曲を年老いてから録ったらどうなるか、という実験の元にやってみたそうです。アルバムに違和感なく収まってますし、でも確かに若い頃のフィールを持っていて、聴けば聴くほど魅力的に感じる楽曲なんですよね。

また、ブルース的アルバム最高傑作は"The House of a Thousand Guitars"。彼の往年のヒット・ソングのような独特なタイトルであり、ジャケットから彷彿させるような寂しさが伝わってくるピアノが切なく美しい楽曲です。

この2つのテーマが上手く交錯し、暗いテーマにも関わらず明るさや希望を感じる音楽は広く賞賛され、各音楽レビューなどでも「最高傑作」、「キャリアハイ」などと評されました。アルバムは商業的にも大きな成功となり、「2020年のリリース初週に最も売れたアルバム(アメリカ)」にもなりました。

バンドはもちろん、裏方も素晴らしい面子が揃っていて、マスタリングにはアラバマ・シェイクス(Alabama Shakes)の『Sound & Color』(2015年作)やダフト・パンク(Daft Punk)の『Random Access Memories』(2013年作)を手掛けたボブ・ラドウィグ(Bob Ludwig)。E ストリート・バンドのニルス・ロフグレン(Nils Lofgren)はニール・ヤング(Neil Young)のバックバンド、クレイジー・ホース(Crazy Horse)に在籍し、名盤『After the Gold Rush』でギターとピアノを担当しています。

また、ブルース自身は制作当時、アイロン&ワイン(Iron & Wine)の『Beast Epic』(2017年作)やカニエ・ウエストの『The Life of Pablo』(2016年作)を聴いていたそうです。

個人的にはザ・キラーズ(The Killers)がブルースに非常に似ていると思っていて、実際キラーズも2ndアルバム『Sam's Town』(2006年作)はブルースを意識して制作したそうなので、こちらもぜひ。

9. Lime Cordiale - 14 Steps to a Better You

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2020年7月10日リリース。11月13日には新たに6曲追加されたアルバム『14ステップス・トゥ・ア・ベター・ユー(リラプス)(14 Steps to a Better You (Relapse))』がリリースされましたが、最近はそちらばかり聴いています。昔はボーナス・トラックとか好きじゃなかったのでこういう"後出し"は苦手だったのですが、人って変わるものですねぇ…(2曲くらいのボートラは未だに不要と思っていますが)。

シドニーのバンド、ライム・コーディアル(Lime Cordiale)の2作目となる今作は、オーストラリアのAriaアワードにて、実に8部門にノミネート。その内「ブレイクスルー・アーティスト(Breakthrough Artist)賞」を受賞したアルバムです。個人的にはアークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)の4thアルバム「Suck It and See」っぽいなと思っていて、だから好きなんだなぁと思っています。

ラインバッハ兄弟のバンド

バンドはオリバーとルイのラインバッハ兄弟が基本的に運営していて、楽曲制作や表に立つ仕事も基本的に彼らがこなしています。メンバーは合計で6人いて、初期メンバーは彼らとブレンダン・チャンピオン(Brendan Champion – Trb)とジェームズ・ジェニングス(James Jennings – Dr)の4人でした。

バンドは基本的にオリバー(Oliver Leimbach - Gt, Vo,Cl)とルイ(Louis Leimbach - Ba, Vo,Tp)のラインバッハ兄弟が運営していて、残りのメンバー4人が面に立つことはほぼありません。楽曲にクレジットされる名前も兄弟くらいですしね。彼らがクラリネットやトランペットといった管楽器を扱えるのは、母がクラシック音楽家でチェロのプレイヤーだからです。また、オリバーはシドニー音楽院でクラリネットを、ルイはニュー・サウス・ウェールズ大学で美術を学びました。彼らのアルバムのジャケットはルイの作品でもあります。

残りの4人のメンバーですが、初期メンバーとしてブレンダン・チャンピオン(Brendan Champion – Trb)とジェームズ・ジェニングス(James Jennings – Dr)は最初からいて、フェリックス・ボーンホルト(Felix Bornholdt – keyboards)とニック・ポロヴィネオ(Nick Polovineo – trombone, guitar)は、調べた限りでは2017年の後半頃には加入していました。ちなみに、2020年7月時点ルイは28歳、オリバーは30歳とのこと。

14 Steps to a Better Youについて

今作は「より良いあなたになるために14ステップ」とタイトルにもあるように、自己啓発風の機知に富んだ内容になっています。主要なメッセージの1つとして、「あまり考えこまないようにする」というのがあり、客観的に自らを省みてポジティブになろう、という気持ちが込められているのだとか。また、「気候変動」について言及した楽曲もあり、エネルギーや電力等の過度の使用を危惧するといったシリアスな面もあります。これらについて書いている動機が「サーフィン」に集約されているのも推せるポイントです。

楽曲のテイストも明るく爽やかで、いかにもオーストラリアのサーフ・シーンという感じが良いですよね。日本で言うTUBE的なポジションでしょう(違います)。

プロデューサーは前作も担当したデイブ・ハンマー(Dave Hammer)。彼は他にもMia RodriguezやE^​ST、Thundamentalsなど、オーストラリアの(主に)ポップ・アーティストのプロデュース・ミキシングなどを手掛けています。

1stアルバムは2009~2016年までの楽曲をひとまとめにしたようなアルバムだったのですが、今作は最初からアルバムを視野に入れ、計画的に制作された作品になっているので、トータル・バランスとして完成されたものになっています。

8. Samia - The Baby

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2020年8月28日リリース。2017年から活動を始めたサミア・ナジミー・フィナーティ(Samia Najimy Finnerty)によるデビュー・アルバム『ザ・ベイビー(The Baby)』。サミアは1996年12月13日生まれの24歳(2020年12月24日時点)で、カリフォルニア州ロサンゼルス出身です。15歳の頃よりニューヨークへ引っ越し、現在はブルックリンを拠点としています。また、彼女の両親はどちらも俳優で、いわゆる2世タレント的な存在です。

祖母の名前にちなんで名付けられたSamiaですが、彼女のアルバムはその祖母の歌声から始まります。ボイスメールのような録音状態の歌声はアラビア語で歌われていて、このメロディ感がそのままサミアのボーカル・スタイルに影響を与えていると彼女は公言しています。

サミアが受けた音楽的影響・キャリア

サミアは「詩」から音楽に興味を持ちました。そもそも詩を読むのが好きで、"アメリカ現代詩の父"ウィリアム・カルロス・ウィリアムズや公民権運動にも参加した活動家マヤ・アンジェロウなどを好んで読んでいたのですが、音楽にも歌詞として叙情詩が入っていて、その造詣の深さに気付き、音楽キャリアを進むようになりました。最初の頃はザ・ナショナルやニルヴァーナなど、1990~2000年代にデビューしたUSのバンドをよく聴いたそうです。

キャリア初期にはギターとマイクだけで、フィオナ・アップル(Fiona Apple)やトーリ・エイモス(Tori Amos)らのカバーを演奏し、バンドを始め、のちにソロ・プロジェクトとして現在のSamiaを立ち上げます。また、この間にニューヨークのニュー・スクール大学(専攻:音楽)に通っていました。

ロサンゼルスにいた頃は地元のバンドのキトゥン(Kitten)に夢中でしたが、それ以外にはミュージカル音楽家スティーブン・ソンドハイム(Stephen Sondheim)、アラニス・モリセット(Alanis Morissette)などを聴き、15歳頃になるとニルヴァーナ(Nirvana)とエリオット・スミス(Elliott Smith)にハマったそうです。また、ここ数年に限るとファーザー・ジョン・ミスティ(Father John Misty)、エンジェル・オルセン(Angel Olsen)、オーケー・カヤ(Okay Kaya)などをよく聴いているとか。

サミアの音楽は、フォーク・ロックとグランジにストーリーテリング(ポエトリー)を合わせたような音楽性です。15歳以降にハマった音楽が今のサミアを形作っているような感じはありますね。

アルバム『The Baby』

アルバムのテーマは「孤独への恐怖心と向き合うことと、人に頼ること」とのこと。ヒッポ・キャンパス(Hippo Campus)やサッカー・マミー(Soccer Mommy)などのオープニング・アクトとしてツアーを回った2年の間に録音されました。

アルバム制作の初期、ロサンゼルスにてよく知り合ってないプロデューサーたちとレコーディングをしてみましたが、あまり上手くいきませんでした。そこで基本に立ち返り、ニューヨークのレーベル・メイトたちと制作を始めてみたところ、かなり感触が良かったので、そのままニューヨークにてレコーディングを再開。そのまま完成へと向かいます。

プロデューサーはハッピー・チルドレン(The Happy Children)のギター・ボーカル、ケイレブ・ヒンズ(Caleb Hinz)。サッカー・マミー(Soccer Mommy)やフォスター・ザ・ピープル(Foster the People)のミキシングを担当したラース・スタルフォース(Lars Stalfors)もプロデュース・ミキシングを担当。サミアはサッカー・マミーのライブ・オープニング・アクトを務めていたこともあり、共通の知人ということで知り合ったのでしょう。

アルバムのバンド・サウンドは、ヒッポ・キャンパスのメンバーとして知られるジェイク・ルッペン(Jake Luppen - Vo, Gt)とネイサン・ストッカー(Nathan Stocker - Gt, Vo)ら、レーベル・メイトのサポートを受けています。また、彼らのアイデアもあって、今作にはエレクトロ要素が加えられました。

サミアはソロですがバンドサウンド志向なので、バンドの楽器をレーベル・メイトであるヒッポ・キャンパス(Hippo Campus)のジェイク・ルッペン(Jake Luppen - Vo, Gt)とネイサン・ストッカー(Nathan Stocker - Gt, Vo)にお願いしました。彼らのアイデアもあって、インディ・フォーク・ロックの音楽にエレクトロ要素が加わることになりました。"Pool"のアンビエントな空気感、"Big Wheel"の壮大さは彼らの助言あってこそ、ですね。

7. Yumi Zouma - Truth or Consequences

2020年3月13日リリース。ニュージーランドで生まれたオルタナティブ・ポップ・バンド、ユミ・ゾウマ(Yumi Zouma)による3rdアルバム『トゥルース・オア・コンセクエンセス(Truth or Consequences)』。いわゆるドリーム・ポップな音楽性です。

ユミ・ゾウマは現在ジョシュ・バージェス(Josh Burgess - Gt)、チャーリー・ライダー(Charlie Ryder - Ba)、クリスティー・シンプソン(Christie Simpson - Vo)、オリヴィア・カンピオン(Olivia Campion - Dr)のラインナップとなっていて、彼らは住所がバラバラなことで知られており、現在世界一ソーシャル・ディスタンスの取れているバンドと言っても過言ではないでしょう。

ジョシュはニューヨーク(アメリカ)、チャーリーはロンドン(イギリス)、クリスティは地元のクライストチャーチ(ニュージーランド)。(Fraser Ross & 04sなど地元のバンドに参加している点から)オリヴィアもクリスティと同じくクライスト・チャーチ在住と思われます。彼らはリモートでの楽曲制作を主としています。

『Truth or Consequences』:これまでのアルバムとの違い

これまでのアルバムとの違いは大きく2つあります。

1つはオリヴィアの加入。これまでドラマーが不在だったユミ・ゾウマは、ライブやレコーディングで打ち込みを活用してやり過ごしてきましたが、今作ではついに初めてのドラマーが参加ということで、生のドラムが録音されています。

ちなみにメンバーはドラマーがいることが嬉しすぎたのか、メンバーはデモ音源の打ち込みドラムをわざわざ消してオリヴィアに送り、彼女に一からドラミング・パターンを作ってもらったのだとか。メンバーが特にお気に入りのドラムは"Southwark"とのこと。

そしてもう1つは、デモ音源を全く用意せずに、リモートでスタジオ入りして全員で楽曲制作するようにしたことです。

今まではデモで楽曲を用意して、それをメール等で返信し合ってアイデアを組み上げていたのですが、今回はスタジオでそれぞれがアイデアを持ち寄って楽曲制作をしました。ある程度完成したら持ち帰っては練ってスタジオで還元し、というのを繰り返したのですが、住んでいる場所が離れているから、誰かが寝ている間に誰かが楽曲を練ったりアイデアを考えたりと、制作はスムーズだったそうです。

こんな作り方をしているにも関わらず、オリヴィアにだけはドラムレスのデモ音源を聴かせて叩かせたっていうのだから、期待値振り切ってたんでしょうね…。

とはいえ、全員で一から楽曲制作をしたことが功を奏したようで、今作は過去最高の出来を実感しており、史上最もバンド・アンサンブルが機能している作品になっているのがポイント。個人ではなく、ユミ・ゾウマというバンドとして認識してもらえるような楽曲が揃いました。

『Truth or Consequences』:あれこれ

今作のプロデュースはバンド名義で、ミキシングはNY在住のジェイク・アーロン(Jake Aron)。

彼はグリズリー・ベア(Grizzly Bear)の『Shields』(2012年)と『Painted Ruins』(2017年)でエンジニアを担当し、スネイル・メイル(Snail Mail)のデビュー・アルバム『Lush』(2018年)でプロデュース業全般を担当したことで知られます。

アルバムのメッセージは「個人としての成長」があり、失恋や幻滅、距離感など、人間関係についての歌詞が多く書かれました。バンドのお気に入りは"Cool for a Second"。理由として、クリスティがボーカルを再録音・歌詞の微調整を繰り返してきたことでより内省的なものになり、全員がクリスティの経験を共有できたためと語っています。

"Cool for a Second"のMVは、ニック・マック(Nick Mckk)監督によって撮影されました。

ちなみに、ジョシュは2020年3月頃に30歳を迎えたそうで、今作は20代最後のアルバムという認識で良いのかもしれません。

インスピレーションの源泉

お互いが良いと思ったアーティストをシェアしたり、生活の中で流れる音楽をBGMとしたり、今作ではそういった身近なところから影響されたのだとか。意識的に聴いたアーティストやアルバムは特にないようで、これはむしろ意図的に避けた感すら感じます。そういった理由もあり、アルバム制作時に聴かれた音楽はどれも比較的新しいものばかりでした。ワイズ・ブラッド(Weyes Blood)、ジェイ・ソム(Jay Som)など女性SSWや、ビッグ・シーフ(Big Thief)やレディオ・デプト(The Radio Dept.)など、比較的穏やかなバンドも好んで聴かれました。

アイヴィー(Ivy)の『Apartment Life』やフェイ・ウェブスター(Faye Webster)の『Atlanta Millionaires Club』なんかも近いものを感じるので、この辺りもぜひ一緒にどうぞ。

ユミ・ゾウマは、今後スタジオ・ライブ・アルバムを出すことも検討しているようで、もしかしたら近い将来、ライブ・アルバムが聴けるかもしれません。最近は配信ライブも当たり前になってきたようですし、こういった作品もまた楽しみですね。

6. Young Gun Silver Fox - Canyons

2020年2月21日リリース。大人なロックのジャンルで現代を代表する2ピース・バンド、ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス(以下YGSF)の3枚目のアルバム『キャニオンズ(Canyons)』。

メンバーはイギリスで活動するソウル・バンドのママズ・ガン(Mamas Gun)のフロントマンであるアンディ・プラッツ(Andy Platts)と、マルチ・ミュージシャン、プロデューサー、映画やゲーム音楽など幅広く作品を手掛けるショーン・リー(Shawn Lee)の2人からなります。

YGSFはザックリ言うとAOR。もしくはソフト・ロックやヨット・ロックといったジャンルに分類される音楽性のバンドです。日本だとシティ・ポップに位置付けられますね。"AOR"とは、アダルト・オリエンテッド・ロック(Adult-Oriented Rock)の略称で、スティーリー・ダン(Steely Dan)、ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)、トト(TOTO)にフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)など、1970年代半ば以降に全盛を誇ったジャンルです。

ジャズやファンク、ソウルにR&Bなどのオシャレ・ミュージックを1960~1970年代テイストに仕立て上げつつ現代的なロックとオーケストレーションを盛り込んだ、ゴージャスかつシック。大人向けのロックとなっております。

アルバム『Canyons』の詳細

作曲の過程は、ショーンが作曲・アレンジをしてアンディに渡し、受け取ったアンディがメロディと歌詞を盛り込んでいくスタイル。基本的にすべての楽器をショーンが担当して、ホーンなどに外部ゲストを起用することがある程度で、その中でも今作は特にニコル・トムソン(Nichol Thomson)とトム・ウォルシュ(Tom Walsh)らの活躍が著しいです。

ニコル(トロンボーン)は元インコグニートのメンバーで、ロビー・ウィリアムズ(Robbie Williams)やジェイミー・カラム(Jamie Cullum)といったイギリスのアーティストたちの楽曲に参加するなどしてキャリアを築きました。トム(トランペット)は王立音楽アカデミー(Royal Academy Of Music)のジャズコースを首席で卒業。ジャズやオーケストラのバンドを渡り歩いてきた猛者中の猛者。2人は現在、スパイス・フュージョン(Spice Fusion)というバンドでそれぞれの担当楽器を演奏しています。

3rdアルバム『キャニオンズ』は、クラシックなウエスト・コースト・ロックの現代版であり、完成されたサウンド・エスケープが魅力です。ちなみに『キャニオンズ』とは、カリフォルニア州ロサンゼルス、西海岸ロックの聖地、ローレル・キャニオンとトパンガ・キャニオンを暗喩しつつ、アンディとショーンの間に作られた"自由と創造性の広大な空間"を意味しているのだとか。 

YGSFが愛した音楽たち

バンドは10年以上前、2004年に音楽SNSのMySpaceを通じて出会い、2012年頃にYGSFを結成。お互いにホール&オーツの『Abandoned Luncheonette』やスティーリー・ダンの『Aja』、シャギー・オーティスの『Inspiration Information』などから影響を受けてきたため、意気投合したんですね。

彼ら自身のお気に入りの楽曲は、アルバムのラストを飾る"All This Love"。本当に70年代が蘇ったかのような、素晴らしいバラード曲です。エルトン・ジョンやカーペンターズなどを彷彿とさせます。

5. Lola Marsh - Someday Tomorrow Maybe

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2020年1月24日リリース。ユダヤ人が7割以上・アラブ人が2割を占め、公用語はヘブライ語。アジア圏でありながら、ロシア(ヨーロッパ)やモロッコ(アフリカ)などからの移民が多く、一言で「多様性」と片付けるには複雑が過ぎる国、イスラエルにて結成されたバンド、ローラ・マーシュ(Lola Marsh)の2ndアルバム『サムデイ・トゥモロー・メイビー(Someday Tomorrow Maybe)』。

5人組のバンドですが、核となるのはボーカルのヤエル・コーエン(Yael Cohen)とギターのギル・ランダウ(Gil Landau)(2人とも1985年生まれ)。元々はデュオで音楽を始めたのがローラ・マーシュの始まりですし、楽曲制作もこの2人によるものですし。

今作のプロデューサーはギルが担当。前作でもすべての曲のプロデュースに携わっていましたし、余計な介入も減った分、今作の方がよりローラ・マーシュらしい音楽に仕上がっているのではないかと思います。また、アルバムタイトル『サムデイ・トゥモロー・メイビー』は、アルバムに収録されなかった曲の名前が由来なんだとか。

今作のテーマ「つながり」

ヤエルとギルは、結成から1年半後くらいから交際を始めたのですが、2017年に1stアルバムがリリースされた頃に破局を迎えました。現在は元のバンドメイトという関係に戻り、そのままバンドを続けています。

そんな影響もあってか、今作は愛情や人間関係についての歌詞が多く、「つながり」をテーマとしたアルバムと言えそうです。"Strangers on the Subway"では「見知らぬ人同士だった/時には喧嘩もした/私の恋人だった人は、今では友達になった/私たちは最期まで兄妹よ」と歌われていて、これは彼らの関係を端的に表しています。

楽曲にも"つながり"が強く意識されていて、例えば"Darkest Hour"は前作の楽曲"She's a Rainbow"の兄弟作のようなもので、歌詞や楽曲の雰囲気を意識的に接近させた楽曲になっています。他にも"Only for a Moment"の歌詞は1st収録"Bluebird"を参照していて、"Darkest Hour"に出てくる歌詞"In the Morning"は11曲目"In the Morning(Interlude)"を指しています。インタビュー記事などを読んでいて分かったのですが、カンニングしつつもアハ体験ができてめちゃくちゃ気持ち良かったです。交互に聴いてみましょう。

Lola Marshの音楽性・影響

ヤエルもギルもオールディーズの音楽が好きで、特にエディット・ピアフ(Édith Piaf)、ニーナ・シモン(Nina Simone)とエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)は必ず名前を挙げるほどの敬愛っぷりです。他にニック・ドレイク(Nick Drake)、スフィアン・スティーブンス(Sufjan Stevens)やクロスビー、スティルス&ナッシュ(Crosby, Stills, Nash & Young)なども好み、ジャンル的にはフォーク、ソウル、サイケデリックとドリーム・ポップ辺りが挙げられます。

また、それらに加えて映画のサウンド・トラックやミュージカル音楽も好んで聴き、特にクエンティン・タランティーノ監督とウェス・アンダーソン監督からは音楽だけでなく映像としてもインスピレーションの源になっているのだとか。そういう関係もあって、ローラ・マーシュの音楽は映画音楽的で、ノスタルジーとロマンチシズムを感じさせます。

事実、彼らの1stアルバムからの先行シングル"Sirens"(2015年3月リリース)は「クエンティン・タランティーノ監督の次の映画音楽かのようだ」と評されています。ちなみにその次に出たシングル"You're Mine"をYouTubeで発見した僕は「まるでAppleのCMソングのようだ」と評しました(?)。

また、ギルは1960年代後半~のプログレッシブ・ロックを幼少期によく聴いていたそうで、ピンク・フロイド(Pink Floyd)やムーディ・ブルース(The Moody Blues)など、イギリスのバンド音楽が好きなようです。彼は1979年以降の音楽を意図的に避ける生活を23歳まで過ごし、昔の音楽をひたすら聴き続けました。この制限があったからこそ、ローラ・マーシュの音楽は古典的な音楽の影響が色濃いのではないかなと思います。

ちなみに以下のライブ映像は最高なので、ぜひ観てみてください。オールディーズに敬意を払いつつ、新しい音楽へアップデートしているのがめちゃくちゃに伝わってきて最高なので。映像も美しい。

4. The Flaming Lips - American Head

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2020年9月11日リリース。ザ・フレーミング・リップス(The Flaming Lips)による16枚目のアルバム『アメリカン・ヘッド(American Head)』。今作のリリースにあたって最も大きな出来事といえば、やはりフロントマンであるウェイン・コイン(Wayne Coyne)に初の子供ができたことと、長年の恋人(ケイティ・ウィーバー)と結婚したことが挙げられます。

彼らは2018年に子供を設け、2019年1月に結婚。子供の名前はブルーム(Bloom)で、奥さんが名付けたらしいのですが、夫婦はお互いビーチ・ハウス(Beach House)の4thアルバム『Bloom』を1万回は聴いたと豪語するほどのファンで、そこも由来しているのではないかとされています。ブルームという名前からは、ケイティと初めて出会った頃を思い出させ、良い感情になれるとのこと。

正直なところ、フレーミング・リップスに関してはあまり通っておらず、ほとんど『The Soft Bulletin』くらいしか聴いたことがないレベルなのですが、今作はめちゃくちゃ良いですね。彼らに関しては基本的に「いまいち良く分からないなぁ」で毎回終わるのですが、『ソフト~』や今作のようなポップで分かりやすいアルバムをたまに出す印象があります。また、モービー(Moby)のアルバム『Everything Was Beautiful, and Nothing Hurt』(2018年作)のようなアンビエント性も感じられ、個人的にかなり刺さったのもあります。

アルバムについて

アルバム制作当初、タイトルは『アメリカン・デッド(American Dead)』でした。テーマが亡くなった兄弟や家族というものだったのもあり、ウェインも「クールなタイトルだ」と思っていたのですが、奥さんやマネージャーのスコットから「なんだそのバカげたタイトルは?変えなさい」と言われ、現在のものになりました。もしタイトルが変わらなかったら、暗いアルバムになっていたのかも知れませんね。

とはいえ、「死」がテーマの1つなのは変わらず、今作ではアルバム全体を通して、様々な視点から様々な人々の死について歌われました。他に"Mother I've Taken LSD"など「麻薬」をテーマにした楽曲もあり、"You n Me Selling Weed"なんかは16~17歳の頃に売人だったエピソードを取り上げた、自伝的な内容にもなっています。

そういったことを取り上げようとなったきっかけが、トム・ペティ(Tom Petty)の死です。彼は2017年に鎮痛剤の過剰摂取で亡くなりました。瞑想的でスリリングなサウンドは、彼の死が大きく反映された結果とのこと。彼の幻想的な部分に触発され、そのまま過去に亡くなったミュージシャンたちについて考える機会となったそうです。

アメリカのバンドというアイデンティティ

元々彼らは自身のことを「地球出身のバンド・ミュージシャン」と捉えていて、少なくとも「アメリカのバンド」という認識はしていませんでした。トム・ペティの死によって内省の時間が増え、自身のルーツについて考えるようになったことで、「アメリカのバンド」というアイデンティティを身につければ、次の創造的冒険に出やすくなる、と考えたそうです。

例えばイーグルス(Eagles)やグレイトフル・デッド(Grateful Dead)、パーラメント(Pirliament)にファンカデリック(Funkadelic)、そしてもちろんトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ(Tom Petty and the Heartbreakers)といった古典的なアメリカのバンドたちと、現在の音楽との新たな融合を試みたのだとか。

Kacey Musgravesの参加

ケイシー・マスグレイブス(Kacey Musgraves)はアメリカのカントリー歌手なのですが、今作で彼女は3つの楽曲に参加しています。フレーミング・リップスが彼女のことを知ったのは、ギターのスティーブンが娘の学校への送り迎えのときに娘が好んで流していたことがきっかけです。スティーブンもケイシーの楽曲を気に入り、アルバム制作に取り掛かり始めたときに「彼女に歌ってもらおう」と話題に挙げたことで実現へと向かいました。

音楽は聴いて知っていたのですが、何しろ実物としてのお互いを知らないこともあって、計画は一度頓挫しかけました。しかし、2019年のボナルー・フェスでケイシーがフレーミング・リップスの楽曲"Do You Realize??"をカバーしたことを受け、(たまたま連絡先を知っていた)彼女のベーシスト経由でケイシーとコンタクトを取り、今作の参加が現実となりました。

ケイシーは②"Watching the Lightbugs Glow"③"Flowers of Neptune 6"⑫"God and the Policeman"の計3曲に参加しています。

3. Dua Lipa - Future Nostalgia

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2020年3月27日リリース。イギリスのアーティスト、デュア・リパ(Dua Lipa)による2ndアルバム『フューチャー・ノスタルジア(Future Nostalgia)』は、元々4月3日にリリースする予定だったのですが、コロナの影響やアルバムのリークなどの問題があったため、1週間前倒しでリリースされることになりました。

1stアルバムはシンプルに"イギリスのポップス・アルバム"といった感じで全く興味が湧かずにスルーしまして、今作もリリース当時は思いっきりスルーしていたのですが、友達が「良いよ」と言っていたので聴いたところ、アルバム・コンセプトがしっかりしているなと感じ、ちょうどオンライン・ライブがLIVE Nowで配信されていたので観たところ、まんまとハマって今に至る。というところです。1stは今聴いてもやっぱり「うーん」なのですが、今作はめちゃくちゃ良いです。スルーしたのは間違いでした。

ダンスポップやエレクトロなどを取り込み、ポップなディスコ・サウンドな今作は、2020年にSpotifyの女性アーティストで最もストリーミングしたアルバム(全体では5番目にストリーミングされたアルバム)など、記録的な意味でもとんでもないアルバムです。シングルは5枚あり、その内"Don't Start Now"はSpotifyで10億再生を突破。この曲はレコードオブザイヤー、ソングオブザイヤー、ベストポップソロパフォーマンスにノミネートされました。UKからのポップ・アーティストでこれだけ売れているのは割と珍しいので、Uk好きとしては素直に嬉しいところ。

とにかくライブが最高でした

ポップスのアーティストのライブっていうのは常に完成されていて、ギミックやダンスなど、総合的にその世界観に浸れ、本当に没入感がスゴくて楽しいから満足度が高いのですが、デュア・リパのライブもまさに圧巻でした。今では観られなくなってしまったのですが、LIVE Nowで配信されていたライブ「STUDIO 2054」は本当に素晴らしく、アルバム・コンセプトがしっかりと決まっているからこその完成度でした。

通常のライブとは違い、舞台を用意してその中でパフォーマンスしていくのですが、トークもなくひたすら歌って踊り、ときにゲストが参加(アルカ(Arca)、マイリー・サイラス(Miley Cyrus)、アンジェル(Angèle)、エルトン・ジョン(Elton John)、カイリー・ミノーグ(Kylie Minogue))し、要所要所で衣装チェンジし、とにかく良かったです。これに尽きます。とにかく良かった。いつかNetflixとかで配信して欲しいな…。

Future Nostalgiaのコンセプト

アルバム制作当初の2018年1月時点、タイトルは『グラスハウス(Glass House)になる予定でした。しかし同年10月9日、ラスベガスでふと現在のタイトル『Future Nostalgia』というフレーズを思い付き、アルバムにピッタリなのでは?と思い、そのまま採用することに。8月28日に"Levitating"をレコーディングしていたのですが、この楽曲で大きな手応えを感じ、漠然とこういう路線でアルバムを作ろうという意思があったのでしょう。ちなみに"Glass House"は"Future Nostalgic"の歌詞として使用されています("Can't be a rolling stone if you live in a glass house (Future nostalgia)")。

今作は特に1980年代(補助的に1970~2000年代)をオマージュしたようなレトロフューチャリズム的音楽性のアルバムです。

これはデュア・リパが10代の頃によく聴いたグウェン・ステファニー(Gwen Stefani)、マドンナ(Madonna - 『Confessions on a Dancefloor』))*(2005年作)、ブロンディ(Blondie - 『Beautiful』)(1985年作)、アウトキャスト(OutKast)、ピンク(P!nk - 『M!ssundaztood』)(2001年作)、ネリー・ファータド(Nelly Furtado)、ジャミロクワイ(Jamiroquai)などのアーティストに加え、両親が聴いていた音楽であるプリンス(Prince)、シック(Chic)、ビージーズ(Bee Gees)、カイリーミノーグ(Kylie Minogue)『Fever』(2001年作)などのダンスポップ、エレクトロ、ディスコ、ファンクにシンセポップなどのダンサブルなジャンルを巧みに混ぜ合わせ、それに現代的要素を加えたようなアルバムになっています。

目標として「マドンナやグウェンなどのようにクラシック級の硬度を誇る、彼女らと肩を並べるようなポップス楽曲を揃える」ことを掲げていました。とはいえ、総合的には楽しく踊れるような気持ち良いアルバム、というのが本質といったところではないのかなと。

父親は1969年3月4日生まれ。2020年12月24日時点で51歳ということで、青春時代が1980~1990年頃だったんですね。だからこそプリンスの大ファンで、この頃の音楽は大人になって子供ができたときにBGMとして使用され、幼少期からプリンスを何となく聴かされ続けたデュア・リパ的にも一種の思い出として深く残った、といったところでしょうね。

今作のために実に60曲もの楽曲をレコーディングした結果、デュア・リパはタイトルの通り"未来と郷愁"を見事につなげ、全く新しいものを作り上げました。また、音楽はライブ感を重視して、その上で現代のエレクトロニック・プロダクションを存分に活かした作品に仕上がりました。

2. A Girl Called Eddy - Been Around

2020年1月17日リリース。"Girl, where you been?"(どこにいたの?)という言葉から始まるア・ガール・コールド・エディ(A Girl Called Eddy)(本名:エリン・モーラン(Erin Moran))(以降エディ)の実に16年振りとなる2ndアルバム。小粋な始まり方が素敵です。

活動自体は継続的に行っていて、本格的にソロでリスタートしたのは2014年の頃。また、ザ・ラスト・ディテール(The Last Detail)というユニットで2018年にアルバム『The Last Detail』をリリースしています。こちらもまた素晴らしいのでぜひ聴いてみてください。

音楽性

残念ながら僕は当時1stアルバムを聴いておらず、今作を発見して初めて彼女のことを知ったのですが、新譜を一聴して即お気に入りに入ったのが分かりました。カーペンターズ(Carpenters)やキャロル・キング(Carole King)のような、1970年代のソフト・ロックが現代に蘇ったような音楽を嫌いな人などいないでしょう。

当時はエイミー・マン(Aimee Mann)やベス・オートン(Beth Orton)らと比較されていたようで、確かにエディからは同じようなニュアンスを感じ取れます。また、彼女は年齢非公表なようですが、多分1960~1970年の間に生まれたんだろうな、と比較対象となったアーティストたちから伺えます。

名前がDusty Springfieldのアルバム『A Girl Called Dusty』のオマージュということもあり、個人的には1964年を彼女の生まれ年として勝手に設定しています。真実はどうか分かりませんが、当たらずといえども遠からずではないかと。

エディの両親はどちらもミュージシャンでした。父はトランペットの名手で、母はジュリー・ロンドン(Julie London)のような歌手であり、当時流行っていた音楽はエディの兄から教わったそうです。

1stはイギリスからの影響を反映したようなアルバムで、今作はアメリカ。自身のルーツに立ち返ったような作品で、ソフト・ロックを中心としつつ、バッファロー・スプリングフィールド(Buffalo Springfield)やボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)など、1960年代後半~1970年代の音楽性が見事に表現されています。

『Been Around』

空白の16年の間にエディは「死、離婚、病気、うつ病」という4つのD(death, divorce, disease and depression)とアルコール問題のために、活動休止を余儀なくされていました。肉体的にも精神的にもボロボロだった彼女は、それでも楽曲を生み出すことが好きなことを思い出し、2004年以来のソロ・アルバムを2014年より着手し始めます。

数年前にThe Silver Seasのアルバム『High Societ』に夢中になったことで、そのメンバーであるダニエル・タシアン(Daniel Tashian)といつか一緒に制作がしたいと考えた彼女は、ダニエルとコンタクトを取り、アルバムの共同制作を取り付けます。

ダニエルの拠点がテネシー州ナッシュビルなため、今作は主にナッシュビルでレコーディングされました。ダニエルはケイシー・マスグレイブスのアルバム『Golden Hour』(2018年作)のプロデュース及び各楽器アレンジを担当していることでも知られています。

今作はエディが子供の頃に大好きだったスティーリー・ダン、ローラ・ニーロ(Laura Nyro)、リッキー・リー・ジョーンズ(Rickie Lee Jones)、プリファブ・スプラウト(Prefab Sprout)、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)などの影響を前面に出したアルバムになっています。

アルバムを最高のものにするため、バック・バンドには非常に力がこもっており、コーラスにジェニー・ルイス(Jenny Lewis)とのコラボで知られるワトソン・ツインズ(The Watson Twins)、ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)やエミルー・ハリス(Emmylou Harris)らとも共演したサックスのジム・ホーク(Jim Hoke)、スティーリー・ダンのサポート・メンバーでもあるマイケル・レオンハート(Michael Leonhart)などがいます。

"Charity Shop Window"にはダフト・パンクやマック・ミラーの楽曲制作も関わったポール・ウィリアムズ(Paul Williams)、"Judy"と"Come to the Palisades!"にはエリカ・バドゥ(Erykah Badu)やザ・ルーツ(The Roots)、エド・シーラン(Ed Sheeran)などと共演およびレコーディングに参加したレイモンド・ジェームズ・メイソン(Raymond James Mason)など、楽曲単位でも幅広いアーティストが参加しています。

嬉しいことに、エディはこれ以降も音楽制作していることを報告しています。これから長く付き合っていけたら良いなぁ、と思いつつ、今作を楽しみましょう。

1. Haim - Women in Music Pt.Ⅲ

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2020年4月24日→6月26日リリース。コロナの影響により。

前作『サムシング・トゥ・テル・ユー(Something to Tell You)』以降、ハイムの全アルバムのプロデュースを担当し、キーボードや打ち込みなどサポート・メンバーであり、ダニエルのパートナーでもあるアリエル・レヒトシェイド(Ariel Rechtshaid)が精巣腫瘍(精巣がん)の診断を受け、しばらくの間実質的に活動休止をしていたハイム(Haim)の3rdアルバム『ウィメン・イン・ミュージック・パート3(Women in Music Pt.Ⅲ)』。

鬱と内省の時期

精巣腫瘍は無事に治り、2019年にはヴァンパイア・ウィークエンド(Vampire Weekend)(以下VW)の新譜『Father of the Bride』のエンジニアとミキシング、そしてギター(16曲目)としても参加。ダニエルもアルバムに参加して、シーンへ完全復帰を果たします。

彼の介護("Summer Girl")の際、ダニエルは鬱の診断("Now I'm in It")をされ、非常につらい時期が続きました。それを機にエステは14歳から続く1型糖尿病との闘いと、アラナも20歳の頃に交通事故で親友を亡くしたことと向き合う("Hallelujah")など、内省的な過ごし方をしてきたことが今作では反映されています。3rdアルバムは個人的なトラウマと立ち向かったアルバムでもあると言えます。※()内はそのことについて書かれた楽曲です。

Women in Music Pt.Ⅲ

アルバム・タイトルが示すように、今作はバンドが音楽業界で直面した問題(ミソジニー)について言及した作品となっています。バンドは初期には「ポップすぎる(“too pop” ("too female"と読む))」と言われ、最近でも、フェスに出演した同じくらいのキャリアである男性バンドのギャラが自分たちの10倍も多く支払われていたなど、「女だから」という理由で不当に扱われてきたことに意義を唱えた"怒り"のアルバムでもあります。

音楽性としては、特にジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)の『Hejira』(1976年)からの影響が大きく、今作の大きなテーマとして設定され、アルバム制作中には何度も聴き返したそうです。特に顕著なのが"Man From the Magazine"でしょう。カバーかと思うくらいにジョニってます。

音楽的に非常に挑戦的な作品でもあり、"Up From a Dream"のVW meets テーム・インパラ(Tame Impala)的なサウンドや、"I Know Alone"ではUKガラージなど、夏らしいハイムのカラっと明るい音楽性はそのままに、ゲスト参加も相まってカラフルな音像が楽しめます。

今作では元VWのロスタム・バトマングリ(Rostam Batmanglij)がほぼ全曲参加していて、ところどころにVWを感じることができます。シンセ音たった1つだけでもVWっぽいなってなる辺りは流石だなぁ、と。でもちゃんとハイムの舞台なんですよね。それと、今作はドラムの音に「90年代USロックのような"広がり"を持たせたドラム」をイメージして作られたそうです。

また、今作はドラムの音にこだわりがあり、90年代の広がりを持たせたようなUSロックのドラムをイメージしたそうです。トム・ペティの『Wildflower』、ボニー・レイット(Bonnie Raitt)の『Nick of Time』などの感じだそうで。ちなみにこれらはハイムのお母さんの好きなレコードとのこと。

おわりに

何か1つでも新しい音楽に出会えたらこちらとしても大満足です。今年はアーティストの方々も「内省」や「死」について考えることが多かったように思います。だけど作品自体は暗いわけではなく、明るく希望のあるような楽曲が多くて今年もハッピーに過ごせました。まだまだ大変な世の中は続きそうですが、健康に気を付けて音楽に頼りながら過ごしましょう。

良いクリスマス、良い年末年始を!